監査で使えるコネタ製作所

ある東海地方の会計士試験合格者が見つけた監査に役立つコネタを書き綴ります…

人件費の再計算がつまらないと思っているJ1へ贈る!監査で人件費を細かく見る2つの理由!

 

皆さんこんにちは。茶そばです。

 

最近は時期的に内部統制監査を担当することが多く、会社の方とヒアリングをしたり、証跡を集めたりしています。

そんななかで私の嫌いな項目が一つあります。

それは「人件費」です。

嫌いだからこそ避けていたのですが、最近改めて「どうしてこの手続をやるんだろう」と少し考えてみました。

そうしたら意外と重要だ!ということに気づいたので、皆さんにもご紹介したいと思います。

 

 

財務諸表監査を行う上で、人件費はそれほど重要視されません。
せいぜい増減分析や、一人当たりの給与の分析を行う程度で、細かく手続を行っている現場は少ないかと思います。

なぜそのようなことができるのかと言えば、人件費はほとんどのプロセスを内部統制に依拠しているからです。
だからこそ、監査人は財務諸表監査ではなく「内部統制監査」の一環で人件費プロセスを確認します。

もしも、内部統制に依拠できないとなれば、財務諸表監査以前に違法行為(労働基準法に従って人件費を支払っていない)の認識と言うことになるでしょう。
内部統制監査、財務諸表監査どちらも、適正意見を出すことは難しいと考えられます。

 

 

ただ、人件費をごまかそうと思ってもそれは難しい芸当です。
なぜなら、人件費にはたくさんの外部者が関わっているからです。
人件費を直接受け取る「従業員」、税金や保険関係の「役所」、そして労働者の権利を守る「労働基準監督署」。
これほど外部からがんじがらめにされている業務プロセスも、珍しいのではないでしょうか。
ゆえに人件費で不正を使用と思ってもなかなか難しいのです。
(もっとも、人件費の金額は合わせてきても、本来製造原価のところを販管費に入れて粗利率を高めるために行う科目の付け替えや、固定資産の取得に要した支出だと称して建設仮勘定へ含めてしまうと言うような会計的な不正の余地は残ります。また倒産間際の会社が、人件費を違法に計算することも考えられますが、ほとんど出くわす機会はないかと思います。)

 

 

結論からいえば、人件費の金額を不正することは難しいと言うことです。
ではなぜ、私たちは、内部統制監査でわざわざ人件費プロセスを確認するのでしょうか。
これは2つの理由があります。


1.人件費の計算もできないような内部統制は、重要な不備があると考えられるから。
昨今、労働問題にうるさい日本社会。人件費の計算は法律でガチガチに決まっているため、誤ることはほとんどありません。

それに加えて、手計算を行っているような会社は現在見たことがありません。自前で計算するにしても、ソフトウェアを使うのが一般的です。

要するに、誰でも正しく計算できる環境が整っているにもかかわらず、人件費の計算もできないようでは、内部統制に重要な不備があると考えられるのです。


2.内部統制監査をしなくても、結局同じことを財務諸表監査でも確認するから。
仮に内部統制監査をスキップしたとしても、人件費を財務諸表監査で手続きしようとなれば、結果的に内部統制監査と同じ事をします。

 

内部統制監査では、ウォークスルー(内部統制の整備状況評価)やTOC(内部統制の運用状況評価)を行います。

これらは、会社が行っている内部統制を監査人自らが証跡を用いて後追いするという手続です。

人件費プロセスの最大のメインは、「給与計算」になりますから、内部統制監査上再計算がメインです。

ここで内部統制が有効と認められれば、他の人件費も正しく計算されているという心証を得られるため、財務諸表監査では人件費について特別詳細な手続は検討しません。

 


仮に内部統制監査を実施しなければ、財務諸表監査では何らかの詳細テストを検討する必要があります。

とはいうものの、人件費の最大のメインは「再計算」ですから、やはりどうしても内部統制監査で行う手続と同じようなことを行わざるを得ません。

結局、内部統制でも財務諸表監査でもやることが同じならば、期末の忙しいときに実施するのではなく、比較的時間に余裕があるタイミングで内部統制を確認してしまうのが効率的であり、1.の趣旨を踏まえると効果的であるといえるのです。

 

<おわりに>

皆さんは、人件費の再計算ってつまらないなと思うことはありませんか。
私も人件費の再計算はそんなに好きではありません。
しかし将来独立しようと思ったときに、給与の計算方法も知らないとお客さんを獲得することは難しいでしょう。
監査的側面を押さえるのはもちろん、実際の計算方法の細かいところを押さえていくのもまた、人件費の再計算の醍醐味かもしれませんね。

 

2017年11月6日 追記

大事なことを書き忘れていました。

人件費を細かく見る理由に「統制に依拠した監査」を実施するためという大切な理由です。

(実務上だと当たり前すぎる話ですが…)

人件費は膨大な件数に上るため、いちいち詳細テストを実施するわけにはいきません。

だからこそ、内部統制の有効性を確認して、統制に依拠した監査を実施するのです。

ちなみに統制に依拠することによって、本来ならばより細かく監査手続を実施しなければならないところ、「内部統制が有効であるから、人件費は適切に計算されている」という推定の下、効率的な監査ができると言うことです。